September 24, 2015 日本的ブランド創生に必要なものは「ロジック」よりも「愛」 時代は感性(ハイコンセプト)の時代へ 最近、いろいろなお客様先で”ブランディング”という観点でビジネスをさせて頂いていますが、こと中小企業においての”ブランディング”とは”企業や製品・サービスの魅力化”に他ならないのではないかと強く感じます。 そもそもマーケティング論やビジネス論の大家のもと、海外でビジネス的にまた学術的に体系化された考え方が”BRANDING”として日本に輸入されたわけで、決してその考え方やロジックがすべてそのまま日本企業に合致するかといえばそうではない部分も多いと思います。その証明として、80年代後半から90年にかけてバブル景気の異常な熱気の中、未曽有の好景気がもたらした利益の一部は、デザイン重視の間違ったブランディングへと大手企業を誘導しました。その結果、新しい企業価値を創造するはずのブランディングに対するイメージも”金がかかる””シンボルロゴはじめデザイン面の刷新”というところが強くなってしまった感があります。 そんな折に、2000年を過ぎたあたりから改めて”ブランディング”が見直され始めましたが、その背景には”既存の考え方、商売の仕方ではモノが売れない時代の到来”があり、大量生産大量消費が象徴する”工業の時代”から、知識や情報が先進諸国を成長させた”情報の時代”の終焉、そして”感性(ハイ・コンセプト)の時代”へのシフト”が上げられます。 マーケットインから「強烈なプロダクトアウト」へ 幾つかの事例を織り交ぜながら話をさせて頂くと、11月4日付けの朝日新聞「天声人語」では、すでにマーケティングありきの「売れる製品サービス作り」から「メーカーオリエンテッドの魅力的な製品サービス」へのシフトを示唆しており、最近、複数の雑誌メディア・学術論文でも「強烈なプロダクトアウト」が必要だと説いています。かのトヨタ自動車の豊田章男社長が就任時に出した社内通達には「売れるクルマ作りではなく、魅力的なクルマ作りへのシフト」という内容が盛り込まれていたとか。 プロダクトポジショニング プロダクトアウト型マーケティングは、顧客志向の夢をみるか? (出典:Teradata Japan, Ltd) http://www.teradata-j.com/library/ma/ins_0901.html また、新しい企業づくり、製品サービスの企画・開発の現場においては今までのマーケティング情報から推測されるGOAL目指してマイルストンを設定する「ロジカルシンキング」から、社内・事業部内・専門分野横断での「デザイン思考」への移行も先進的な大手製造業、IT企業、クリエイティブオフィスでは浸透し始めています。 一例として、得意とするプロダクトデザインを軸に、クライアントのビジネスデザインにまで踏み込んで企業内にイノベーションを巻き起こす米国のDesign Office Ziba ”Design and Innovation Consultancy” のマネージング戦略ディレクターの濱口秀司氏曰く「イノベーションはロジックとクリエイティブ(カオス)の中庸に位置し、心地よいイノベーションを創発するためには、それらが交わる”ハイブリッド状態”を作ることが重要であり、またロジックサイド(言い換えれば多くの場合決裁者でもある経営層またはそれに近しいマネージャ層)がクリエイティブ(カオス)サイドにもコミュニケーションの観点から手を差し伸べ、求めるべきイノベーションのベクトルへと誘導・牽引する必要がある」と説いています。 日本企業が新しいことに挑戦できない理由とは?(Hideshi Hamaguchi) イノベーションを育むハイブリッドマネジメント http://www.worksight.jp/issues/vision/000147.html 要するに、既存の考え方から脱皮し、企画・開発の現場においても製造の現場においても(そして間違いなく経営の現場でも)常に新しいコト・モノを考え作り出し、競合他社と違う”何か”を追い求めなければならないということです。人はそれを”差別化”と呼んでおり、そのアクションの積み重ねの先にあるのが企業や製品サービスの”ブランド化”なのではないでしょうか。 自分たちの会社、製品・サービスに愛情はあるか? さて、翻ってその”ブランド化”を日本の中小企業が実現する場合に必要なことは何か? それは我々が考えるに、今まで述べた小難しいロジックやイノベーション論ではなく、企業を代表する経営者、そして企業を形作るすべての従業員が、属する”企業体”と、そこから生み出される”製品・サービス”に対して”愛”または”愛情”をいかに持つかというところではないでしょうか。 ”愛”とは、相手(対象)への思いやり。愛(め)でること。 ”愛情”とは、相手(対象)に注ぐ愛の気持ち。深く愛する温かな心。 今一度、自分自身に置き換えて振り返ってみて頂きたい。 果たして自分は、属する企業を深く愛しているか? 果たして自分は 、担当する製品・サービスに深い愛情を持って接しているか? 仕事とは別の次元で、興味のある分野、自分の趣味に関してはどれだけ時間を掛けようが、飯も食わずに没頭しようがまったく支障はないはずです。担当する製品・サービスに愛があればあるほど、製造品質が気になって仕方ないだろうし、出荷前の検査なんて舐め回すように商品をみるはず。これはその先にあるお客様に使っていただく際に気持ちよく使って頂きたいという製品愛の顕れであり、それは言い換えれば顧客満足度追求の姿勢であり、製品・サービスに対する責任感の顕れであると思います。特に日本に存在する企業体のうち99.7%が資本金3億円以下の中小企業(※1)と言われていますが、古くは1000年以上前から島国ならではの独自の文化をはぐくみ、その中で非常に特徴のある多くのモノを創りだしてきました。その延長線上にある現代の中小企業の製造技術・加工技術は世界でも非常に注目されるモノも多くあり、世界的に見てもオンリーワンを誇る技術・ノウハウの宝庫でもあります。その”オンリーワン”に到達するためには並々ならぬ努力と血のにじむような苦労、企業経営という観点でも予想をはるかに超える紆余曲折を経てたどり着いた結果であることと思います。そういう経験を経てきた企業の多くには少なくとも”企業愛”や”製品愛”というものが自然と身についていて、特段”愛”を叫び強要しなくとも実現できています。 やはり、いまこそ業界TOPを目指して更なる成長を目指す企業や、創業まもない新興企業にとっては、前段で申し上げた”イノベーション”を社内全体で誘発すべきであり、その感覚を社内全体で共有すべきではないかと思います。そのためには、まずは改めて”企業愛(インナーブランディング)”や”製品愛(アウターブランディング)”を経営主導で推奨し、それらを推進するための企業風土の開発がまず必要なのではないでしょうか。 結果として生まれる新しい付加価値と新しいマーケットの創造 そして、その”愛すること”の結果として、企業や製品サービスの差別化を図ることが出来、その積み重ねの果てには”ブランド化”という新しい付加価値の創造、新しいマーケット(市場)の創造が実現できるのではないでしょうか。 小さなガレージから始めた米アップル社も、故スティーブ・ジョブス氏の強烈な個性と属する有能な社員が引き起こした”製品愛”が今のiPhoneをはじめとする世界中に展開する製品群を作るに至り、提供する製品・サービスがコンピュータだけでなくなったことから社名をも変えさせました。 Panasonic(旧松下電器産業)やHONDA(本田技研工業)も小さな町工場から始まりました。いずれも創始者の武勇伝がクローズアップされがちですが、そこにはまぎれもなく”企業愛”と”製品愛”に満ちた企業活動の歴史が存在しました。 99.7%の中小企業だから未来はないのか? 否。 99.7%の中小企業だからこそできることがあり、未来を作る権利を有しているのです。 そして、こんな不確実で混沌とした時代からこそ、一歩抜きんでるチャンス(抜け穴)は至る所に空き始めており、そのチャンスをただ手招きして待つだけなのか、それとも自ら動いてチャンスを探しにいくのかは経営判断に掛かっています。社員はいつの時代も経営者の一挙手一投足をじっと見つめています。だからこそ、経営層が強い意志を持って”愛”の質や方向性について指し示すことが大事であり、それらを社員だけでなくすべてのステークホルダーと共有していくという姿勢が大事なのではないでしょうか? ※1:中小企業の定義 http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chushoKigyouZentai9wari.pdf 製造業:資本金3億円以下又は従業者数300人以下 卸売業:資本金1億円以下又は従業者数100人以下 小売業:資本金5千万円以下又は従業者数50人以下 サービス業:資本金5千万円以下又は従業者数100人以下 「ビジネスをデザインする」ブランディング・プロフェッショナルチーム Tuning The Real Brand