April 11, 2011 老舗ブランドの再構築(インナーブランディング事例・ブランドブック・社内浸透) 株式会社三愛のインナーブランディング事例 創業から65年を誇るアパレル企業、三愛。水着のセレクトショップ「三愛水着楽園」をはじめ、婦人服、下着などを展開する。1992年には年商1,000億円を超え、ファッションの小売業でナンバーワンの規模にまで成長した。しかし少子高齢化、海外から押し寄せるファストファッションの波など、経営を取り巻く状況は楽観視できるものではない。そして、社内に目を転じてみれば、ブランド意識の希薄化、分散化が生じていた。これは老舗の宿命とも言えるものだろう。一昨年に社長に就任した和田氏は、この点に着目。フルスロットルとともに「三愛スタンダード」の再定義を図り、それに基づいたCIやロゴの刷新、ブランドブックの作成を通して社員との意思共有を進めている。 ブランドは広告宣伝から生まれるものではない —-和田社長を筆頭にブランドプロジェクトが始まったと伺っています。その経緯を教えて頂けますか? 和田:私が社長に就任したのは2009年の4月です。そこで現状分析をしたところ、ひとつの大きな経営課題が浮かんできました。それは、大きな価値のある「三愛」というブランドが失われていたことです。私は限られた資源を有効活用するという経営哲学の視点から、それはNGだと考えたのです。そこで、もう一度、三愛ブランドを復活させることを誓いました。しかし、ブランドは広告宣伝だけから生まれるものではありません。全ての社員とその活動、商品、店舗、情報などトータルな提案ができなければブランドは構築できないことです。逆に言えば、ブランド構築を追求することで、社員や商品などを変えることができるのです。つまり、三愛の変革プログラムを、ブランド構築にロックインしたと言えるでしょう。そこで、社員たちと、「三愛って何?」というところから検討を重ねていったのです。 ブランドを体現するのは社員自身であるべき —-そこから浮かび上がってきたのが、「銀座」と「愛」という2つのキーワードだったのですね。 和田:そこから現在掲げている経営ビジョン「銀座バリューを大切にして愛を描き、創り、提供し続ける三愛」が誕生しました。さらにシンプルに「Love & New」としました。Newは「新型経営」「新型企業」であることを意味しています。そこで、「Love & New」について記したクレドを全社員に配布しました。 林:そこまでが第1フェーズですね。私がお手伝いをさせて頂いたのは、その後です。 和田:当時、社員から「クレドの内容はわかりますが、私たちの日常の活動はどうすればよいのでしょうか」という声があがってきました。しかし、これは私の読み通り。そこで、第2フェーズとして、林さんに加わっていただいて始めたのが昨年の7月です。クレドに表した言葉について、みんなでもう一度討議をし、自分のものにしていただき、社員の声も盛り込みながら新しい道筋を見つけられるか、その活動やプロセスが大事だと考えました。そのために取締役や各事業部長をはじめとする経営幹部で合宿を企画したのです。林さんには、いきなりその合宿に参加して頂きました。親しい知人から、ITビジネス出身で若くて情熱と才覚がある人物が、ブランドコンサルティング会社を起業したと聞き、興味を持ったのです。 林:そこで、企業ブランドとはどのような概念に基づいて構築されるべきかをお話させて頂きました。それから毎週のように、幹部の皆さまとお会いし、時間をかけていくなかで、最終的なゴールイメージが見えてきました。皆さまと多くのコミュニケーションをとらせて頂く事で、プロジェクトの進捗もスムースになったと感じています。 和田:ファッション企業だから、ブランドというものを理解できているかといえば、そうではないと思います。むしろ逆ではないかと。洋服のデザインやロゴ、紙袋やお店の看板など作られたビジュアルをブランドとして意識しがちでした。私が求めているのは、唯一無二の三愛というブランドだけです。このような発想に転換してもらうことに、時間がかかりましたし、フルスロットルさんにも苦労をかけたと思います。 林:いえいえ。しかし、社員の皆さま全員が、この内容をそれぞれに咀嚼して頂くにはもう少し時間がかかると思います。企業のスケールが大きいですから、それは当然でしょう。このように、今回私たちが手がけたのは、外向けのブランディングではなく、社員に向けてのインナーブランディングでした。 和田:私は、ブランドを体現するのは社員であるべきですから、それは有効だと思っていました。 理念をシンプルに伝えるブランドブックも作成 —-そこから、企業理念やCI、ブランドロゴの再構築などを含めた、新たな三愛スタンダード作りがはじまった、と。 和田:CI(コーポレートアイデンティティ)に関しては、ゼロから起こすのではなく、65年の歴史に根付いた、社員やお客さまが認識しているものを、もう一度整理し、リニューアルして頂きました。過去の蓄積を大事にしてくださったと思っています。 林:そして最終的にはブランドブックも完成しました。ご覧になった感想をお聞かせ頂けますか? 和田:当初はここまでデザイン性の高いものを作るつもりはありませんでした。内容が伝われば十分だと思っていたので。しかし、我が社のファッション好きの社員から「おしゃれ」「素敵」という声を聞いた時、これで良かったんだと実感しました。中のコンテンツもシンプルで、あまり多くを語っていないのですが、本質を外していないし、伝えたいことが集約されています。私自身も非常に整理がつきました。 林:ありがとうございます。プロジェクトでわかったのは、日本語の難しさです。どのような言葉で表現すれば響くのか、社員のみなさまの顔を思い浮かべながら創り上げていきました。辞書を紐解き、文献をあたり、最新のファッション雑誌をチェックし、と難易度は高かったですが、非常に楽しく仕事させて頂きました。これは私たちにとっても大きな財産です。本日はありがとうございました。